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後悔した。もし素直に言うことを聞いていれば―――そんなことを思ったがもう遅い。少女が手をかざすと何処から来たのか巨大な球体が現れた。
うっすらと透けて見える球体の中にいたのはユキの妹だった。五つ年の離れた妹の紫音が何故ここにいるのか。否,それよりも重要なことは何故少女が妹を召喚したのかである。
考えたくなかった。だが脳は順次に結論付けてしまった。その理由は―――
「許すわけないじゃないですか。いいですか。もし貴女が拒否をすればここでこの方を殺します。そしてそのあと貴女も殺します」
あまりにも非道,あまりにも身勝手な言動に涙が出そうだった。拒否権なんて最初からなかったのだ。
戦わなければ二人とも死ぬ。逆にユキが戦えば,ユキ自身は死んでしまうかもしれないが妹は生きることが出来る。いや,本当にそうなのだろうか。
「それと貴女がゲーム中に死んでもこの方は殺しますからね」
「……」
少女の言葉にユキは唇を噛むことしかできなかった。
自分の命は今この時点で自分一人のモノではなくなってしまった。
だったらもう覚悟を決めるしかない。夢ではないこの現実で,クソったれなこの人知を超えた力を持つ少女のいうことに従うほかない。
『やるしか……ない』
ユキは自分の頬を全力でたたいた。ジーンと長い痛みが走る。
「OK,やる気になってくれたみたいですねー。嬉しいですよ」
と満面の笑みで少女は言う。そして手をかざすと
「それじゃあ貴女にスペシャルなプレゼントを上げます」
手のひらから光り輝く玉が現れユキの胸の中へと飛び込んでいった。
突然のプレゼントを受け取り,慌てふためいたユキだったが,身体には何のダメージもない。それどころか少し身体が暖かくなり心が落ち着いた気がした。
「フッフー,今貴女に渡したのは『天恵』きっとゲームを有利にしてくれるはずですよ」
『天恵』がどのようなものなのか聞いたところで,どうせちゃんとした説明はしてもらえないだろう。何がどう有利になるのかはまだ分からないけれど,少女の発言を信じるならば外あるものではないということだ。だったらありがたく受け取っておいたほうが良い。
「あっ最後に,今回はー『獣人』『魔法使い』『鬼人』『妖精』『人魚』『小人』『半馬人』『鳥人』『吸血鬼』が参加していまーす。頑張ってねー。言葉もちゃんと通じるようにしておくからー」
「えっ……」
耳を疑った。それもそのはず,獣人に吸血鬼,どれも聞いたことがあったがそれは人間が生み出した架空の生物たちだ。もしも本当にそれらが存在しているのだとしたら,今から戦うのだとしたら,非力な人間が勝てる相手などではない。
「待っ―――」
伸ばした手は届かず,彼女は戦地へと送り込まれる。最後に映ったのは少女の純粋な笑顔。
――――――無意味な殺し合いが幕を開ける――――――
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