第7戦:鬼獣闘戦

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「お前は簡単には殺さねェ。お前となら最高の殺し合いが出来るはずだ。お前の力をもっとオレに見せろォォ!」  鋭利な爪がカルメールを襲う。しかし,カルメールはその攻撃を紙一重のところで避けた。  先ほどの攻撃を避けられなかったのは知らなかったから。速さを知っていれば対処できないことはなかった。  ガウルの攻撃をかわしたカルメールはガウルの右腕を掴むと地面に叩き付けた。  あまりの威力に大地が揺れる。そしてその揺れを更に増幅させるかのように,カルメールは叩き付け仰向けになっているガウルの胸部を踏みつけた―――かに思えたが,すんでの所でガウルは転がり回避した。 「さァ次だ!いくぞォ!」  距離をとりガウルは立ち上がるとカルメールを狩らんと走り出した。それと同時にカルメールも走り出したかと思うと次の瞬間―――ガウルは宙を舞っていた。  何が起きたのかガウルは分かっていた。だが分かっていても防げなかった。  ガウルはカルメールの追撃を喰らうまいとカルメールのいるであろう場所を見た。しかしそこにカルメールはいなかった。  それはガウルが宙に舞ってから一瞬の出来事。普通ならばその場から動くことのできる時間はない。そう普通ならば―――  突然だが獣人が―――ガウルが最も優れている感覚とはどこだろうか。視覚?聴覚?嗅覚?いや違う。ガウルの最も優れている感覚は『触覚』である。獣人には猫や犬のようなヒゲが生えている。それにより空気の流れを敏感に察知し,見えずとも聞こえずとも敵の位置を把握することが出来る。  そのヒゲによりガウルは瞬時に気が付いた。音もなく現れた背後の存在に。  だが体制が悪かった。空中で,しかも攻撃を喰らった直後,体制を整えられていない。  それでもガウルは無理やり身体を捻り,カルメールに向き合った。 「うぉらぁぁぁぁーーーーー!」  だが防御は間に合わず,顔面にカルメールの拳が直撃し,骨の砕ける音と共に目に見えぬ速度でガウルは大地に墜落した。 「――――――ッ!!」  落ちたガウルの顔面は血にまみれていた。だがその血はガウルのモノだけではなかった。 「ハハッ……まさか噛み千切られるとはな。ウチの手はおいしいか?」  無くなった右手に布を巻き付け止血しながらカルメールは聞いた。 「筋肉質で筋が多い。オレ好みの肉だ」  ガウルは答えながらカルメールの右手を骨ごと食った。すると驚くべきことにゆがんだ顔の骨がうごめき修復されていった。 「ホンマ化け物やなアンタ」  カルメールは余裕を見せながら言った。しかし,本当は余裕などなかった。  右手の消滅に内蔵損傷,肉体は限界を迎えつつあった。  それに対し相手は驚異の回復能力を持った化け物,時間が経つほどに状況は不利になっていく。  少しの時間も無駄にはできない。カルメールは『瞬間移動(ノンステップ)』でガウルの背後をとった。  狙うは首―――どれだけ回復能力が高かろうと首を折ってしまえば死ぬはず。  カルメールが首に手を締首に手を絞めようとしたその時,まるで予知していたかのように振るわれたガウルの拳がカルメールの顎を打ち砕いた。  脳が揺れる―――視界が歪む―――平衡感覚が狂う―――  それはコンマ何秒という短い時間の出来事だった。だが戦闘においてそのコンマ何秒というモノは金の一粒よりも価値あるモノ。  ガウルはその一瞬のスキを逃さなかった。  まるで弾丸のように放たれる攻撃を防ぐことも出来ず,カルメールは全身に受けた。  肉が裂け骨が砕ける感覚が全身を駆け回る。  数秒の出来事のはずなのにそれは無限の時のように感じられた。  このまま死んだら楽になれるのだろうか―――そんなことが頭の中をよぎった。  それと共に走馬灯と思わしきものも見え始めた。 『あぁ……死ぬんか……。まぁ人殺しの最後らしい最後やな……』  物心ついた時から人を殺すことだけを教えられ続け,善人も悪人も殺し続けた。まさに因果応報というやつだ。  ようやく鳥籠の中から解放される。もう何も悔いはない―――何も思い残すことはない―――何も―――何も―――そのはずだったのに――― 「ウチは,ウチはなぁ!まだ死ぬわけにはいかんのや!」  ガウルの拳を受け止めるとカルメールは手の噛み千切られた右腕でガウルを殴り飛ばした。  死ぬわけにはいかない。あの二人を守るために,今ここでこいつは殺さなければならない。 「……なんだその姿は。まだ隠してたのかァ!いいぞォ!最高だァ!!」  それは土壇場での覚醒だった。確固たる意志が想いが,カルメールの中に眠る真の力を目覚めさせた。  その姿は炎よりも紅く。その姿は鮮血よりも紅く。その姿は鬼人に伝わりし伝説の力―――その名は『鬼神』
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