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「は?」
完全に油断していた。それはあまりにも異常だったから。想定のしようもなかった。なぜなら今まではそれで勝利だったから。
「なん……で,生きとんねん。おかしい……やろ」
カルメールの腹部を貫いた手がゆっくりと抜かれると,カルメールは痛む身体を動かしすぐに距離をとった。
あまりにも信じがたい光景。それはカルメールが生涯で一度も見たことのない光景。
「ハッ,はハ歯ハハ覇は葉ハは派ハハハ!」
そこに立っていたのは心臓を貫き殺したはずのガウルだった。
驚くべきこと潰したはずの心臓は再生しており,周囲の肉は再生していない為,脈打つ様が見えていた。
『あと少し……あと少しもってや,ウチの身体』
狙うべきは心臓―――どれだけ再生能力が高かろうと,無限に再生できるわけではない。もし出来るのならば,心臓周りも再生するはずだ。なのにそれをしないということは再生には限界があるということ。だから,手を噛み千切った際に喰らった。再生に必要なエネルギーを得るために。
『瞬間移動』距離を詰めたカルメールは心臓を潰しにかかった。
だが次の瞬間カルメールの目に映ったのはアスファルトだった。
『何……が……』
身体が動かなかった。まるで身体が何十倍にも重くなったかのように動かすことが出来なかった。
何とか顔を上げるとガウルも同じように倒れていた。
『誰や……?』
二人の間に何処から現れたのか森に溶け込むほど美しい緑色の髪と尖った耳を持つ少女が現れた。
そしてその少女はガウルとカルメールを品定めするように見比べると,カルメールの腕を掴み何処かへと連れ去った行った。
『クソッ……ユージ,ユキちゃん……』
目の前の敵に注意をとられすぎた。ここは一対一の決闘の場ではない。漁夫の利を狙っている者がいるということを警戒すべきだった。
カルメールは自分の未熟さを悔いた。だがもう遅い。身体の動かないカルメールはただ少女に引きずられて行くしかなかった。
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