15人が本棚に入れています
本棚に追加
第8戦:三度の出会い
二頭の怪物が戦闘を行っている最中,別の場所でも戦闘が行われていた。
「ハァハァ……,ユージ君大丈夫?」
倒壊したビルの陰に隠れ,ユキは小声で言った。
ユキたちはカルメールと別れた後,『上位互換』により強化された『瞬間移動』を使い住宅街を抜けて,高層建築物の建ち並ぶ場所に逃げていた。
しかし,そこで思いもよらぬ敵と遭遇していた。
そして現在,その敵の攻撃を受け避難していた。
「ぼ……僕は大丈夫です。そ……それよりもユキさんのほうが……」
ユージは心配そうな声でユキの様子をうかがった。
それは『瞬間移動』のデメリットである体力の消耗を危惧しての言葉だった。
だがしかしユージのその心配は杞憂だった。
「大丈夫だよ。アタシの心配はしなくていい。アタシの使う『瞬間移動』は体力が減らないから,このまま逃げ続ける」
言葉通り,ユキの使用する『瞬間移動』には体力の消耗が存在しない。
故に理論上は永遠に使用することが出来る。永遠に使用できるとなればこの場から逃げることは容易である。
だがユキたちは現在,逃げることが出来ずにいる。
それは何故か。それは敵の使用する武器が原因だった。
「見ぃつけたー」
「「―――ッ!」」
見つかった―――かに思えたが違った。
その声の位置は遠く,はったりだった。だが安心はできない。
何せ敵は分身と爆弾を駆使して戦う少年―――ディアンなのだから。
『このままではいずれ見つかってしまう。どうすれば……』
逃げるにしても周囲一帯いたるところに爆弾が仕掛けてある。もしも『瞬間移動』で逃げた先に爆弾があったとすればカルメールのような反射神経も耐久力もない二人は爆発に巻き込まれ即死だろう。
だから隠れるしかなかった。万が一を考慮した場合,逃げるよりも隠れてやり過ごし、カルメールが来るのを待つ方が得策だと考えた。
「なぁ,どこにいるのか知らないけどさ,出てきてくれよ。仲良くしようぜ」
カルメールといた際にもディアンは争う姿勢はないと言っていた。
しかしそれは真っ赤な嘘だった。
ユキたちがこの場所に逃げてきた直後,分身か本物かディアンは姿を二人の前に表していた。
そしてその際,ディアンは二人に向けて―――
「もしかして、もしかしなくてオマエらだけか?だったら丁度いい。あの姉ちゃんには敵わねーがオマエらなら殺すのは簡単だ」
と言い放ち攻撃を仕掛けてきた。
ディアンはカルメールを警戒していただけ。敵わないの判断したから懐に入り込もうとしていた。
そんな強敵がいない今、一度戦い戦力にならないと判断した取り巻きに取り繕う必要はないということだ。
足音がユキたちの周囲を囲むように聞こえてくる。
距離は遠いがいつ近づいてくるか分からない。
神経がすり減り,動いていなくとも体力が削られ呼吸が荒くなる。
『どうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば―――』
考えて考えて考えた。しかしその答えが出るよりも先にディアンが動いた。
「嬢ちゃんの能力さ,こうしたら使えなくなるんじゃないか?」
『カチッ』とボタンを押すような音が聞こえたかと思うと,ユキたちを囲むように大爆発が起こった。
次々にビルが倒壊し,その衝撃で立つことがままならない程の揺れと視界が遮断される程の土煙が舞い上がった。
「クッ―――」
バレていたのだ。ユキたちの隠れていた場所が。ディアンは分かったうえで知らないふりをし,爆弾を仕掛けていたのだ。
そしておそらくは,ディアンの言葉を真に受けるのならばディアンは『瞬間移動』の発動条件を理解しているはずだ。
だから周囲の建物を倒壊させた。足場を不安定にした。倒壊させて土煙を巻き上げた。視界を遮断した。
『瞬間移動』を発動させるためには足を踏み出すこと,そして行先を目視していることが必要である。
そのことに短時間で気が付き対応するなんて,敵ながら感心させられる。
だが感心している暇はない。手を考えなければ。
「さぁ出ておいで―,オレッちと遊ぼうぜー」
声がすぐそこまで近づいてきていた。見つかれば命はないだろう。仮に見つからなかったとしても手当たり次第に爆弾を投げてこないとも限らない。
ならば―――
最初のコメントを投稿しよう!