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「おい!爆弾野郎!」
「ユキさ―――ッ」
ディアンよりも先に反応したのはユージだった。
当たり前の反応だ。潜伏を選んでいた人間が突然叫んだのだから。それも何の意図もわからずに。
何故ユキはこのような行動に出たのか。それは賭けだった。
「お前はアタシの能力を勘違いしている。アタシの能力は高速移動なんかじゃない。その気になればお前を殺すことなんて簡単だ」
あえて強い口調で言った。そうすれば相手がさらに警戒すると踏んだから。
もしかしたら退いてくれるのではという期待もあった。
だがしかし,事はそううまくは進まない。
「ならやってみろよ。殺せるんだろ?ほら,早く」
ディアンは落ち着いていた。冷静に殺して見せろと言った。
当たり前だ。ディアンにとってそれは脅しにはならない。
何故なら今近くにいるディアンは天恵によって生み出された分身なのだから。
「どうした?やってみろよ」
一歩また一歩と近づいてくる。
ユキは意思を手に取った。
視界が悪いこの状況ならば,石とて脅威になりうる。
そこに嘘を混ぜれば動揺を誘える可能性もある。
土煙の中に人影が見えた。そして次の瞬間,その人影は崩れ去った。
突然のことでユキは唖然とした。
あまりに不自然。あまりに不可解。
理解するよりも先に答えが飛び込んできた。
「クソがこっちに来るんじゃねぇ!」
爆発音にかき消されるように聞こえた声―――その声はディアンのモノだった。
焦燥感にかられたような声。その言葉からして何かから逃げているようだった。
「もしかして……」
「いや違う」
直感だった。だがユキのその直感は当たっていた。
爆発音に入り混じって,雄叫びが響いた。
「助けッ誰か―――」
声が途切れると土煙を吹き飛ばすほどのスピードで,ユキたちが隠れている建物に何かがぶつかった。
「う……あぁ……」
うめき声が聞こえた。ぶつかったモノの正体はディアンだった。
ユキは身を乗り出すと,陰からディアンの様子を見た。
それはユキが生まれて初めて見る光景だった。
血にまみれ,腹が裂け中から内臓が飛び出たディアンの姿にユキは思わず声を上げてしまう。
「た……助け……て……」
ユキの存在に気が付いたディアンは声を振り絞った。だがその声は今にも消えてしまいそうなほどか細かった。
手遅れ―――誰がどう見ても明らかだった。
「お願い……た……すけて……」
その言葉はあまりにも身勝手。さんざん殺そうとしていた相手に助けを求めているのだから。だがユキにはその気持ちが理解できた。
何をしてでも生きたいという想いで戦ってきたのだろう。
非情になり切れないユキの中には,もしも助けられるのならばという気持ちがあった。しかし,どう考えてもユキの手に負える状態ではないし,もう一人の敵が待ってくれるはずもなかった。
「何……で……」
土煙の中から現れた相手を見たユキは驚愕した。。
姿は更におぞましく痛々しいものとなってはいたが,見間違えることはなかった。
獣のような肉体に欠損した四肢。目の前に現れたのはカルメールと戦っているはずの獣人だった。
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