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第9戦:覚悟と信念
どれだけ引きずられたのだろうか。
カルメールは抵抗すらできないまま,突如として現れた少女にズルズルと引きずられ続けていた。
かろうじて動かすことの出来た目を動かし,状況を把握しようとしたがどこに向かっているのか何が目的か分からなかった。
『波の……音……?』
それに加え潮の匂いもかすかにだが感じた。
考えなくてもわかった。少女が向かっていたのは海だった。
「フフッ,やっと戻ってきましたわね」
声のした方に目をやるとそこには,優雅に魚と戯れている人魚の姿があった。
「随分と汚れていらっしゃるのね。使えるのかしら。ごめんなさい,貴女に言っても意味はないですわね」
人魚は品定めをするようにカルメールの身体をまじまじと見つめた。
「他には誰がいらしたのかしら。貴女の天恵ではこうはならないでしょう?」
「もう一人いた」
少女はまるで機械のように答えた。
「その方はどうなさったのです?」
「重症,置いてきた」
「そうですか。まぁ良しとしましょう。この方だけでも十分ですから。……それでは始めましょう」
『始める……何を……?』
人魚はカルメールの心を読んだように優しい笑みを浮かべた。
「貴女には私の従者になってもらいますわ。大丈夫、貴女は只身を委ねるだけでいいのです。次に目を覚ます時には全部終わっていますわ」
人魚の言葉でカルメールはずっと疑問だったことを理解した。
自身を運んでいた少女に対して感じていた違和感。機械のような無機質性を感じていたのは何故なのか。
それは少女が目の前にいる人魚に操られていたからだ。
そしてこれから自分もそうなる―――
『動けッ―――動いてくれ!』
それだけはなんとしてでも避けなければならない。
己の力を理解できない程バカではない。
もしもあの二人と対峙することになったら、二人に勝ち目はないだろう。
だから―――だから―――
「アアアアアアアァァァァァーーーーーー!」
「―――!」
それはカルメールの覚悟が想いが起こした奇跡か―――鬼人の力か―――
カルメールは力を振り絞り,少女の手を振り払い足を踏み出した。
『瞬間移動』を使い移動した先は海の上―――人魚の眼前。
武骨なその手で頭を掴みへし折った。
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