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追ってくる気配はなかった。ディアンを殺したことで満足したのかもしれない。
ユキはガウルが完全に見えない場所まで来ると足を止めた。
「ここまでくればひとまずは……」
ユキは大きく深呼吸をした。
腰を下ろそうとも思ったが,まだ安心は出来ない。
これからどうすればいいのかを考えなければいけない。
だが―――
『どうすればいい―――なにが最善か考えろ』
疲れきった頭では何をすればいいのかわからなかった。
ユキが考え込んでいると―――
「ユキさん、カルメールさんを……カルメールさんを探しに行きましょう」
ユージは両手でユキの手を強く握りしめて言った。
震えが手から伝わってくる。
『そうだアタシが守らないと』
ユキもユージの手を強く握り返した。
「うん、行こうカルメールさんを探しに」
いつあの獣人が追ってくるかわからない。もし見つかれば非力なユキとユージではいとも簡単に殺されてしまうだろう。
唯一の武器の爆弾も異常な身体能力を持つ獣人に当てるのは無理だ。
だからカルメールを探しに行く。きっとカルメールなら何とかしてくれると思ったから。
無様だろうと関係ない。生きるために守るために最善を尽くす。
「きっとカルメールさんなら大丈夫……きっと」
一抹の不安を抱えながらユキたちは走り出そうとしたその時―――
轟音が響いた。
「いるのはわかってるんだぜェ。出てこいよ……なァ!!!」
「「――――――ッ!!」」
声を出す暇もなかった。
気が付くと目の前にガウルが立っていた。
死を覚悟した。しかしガウルは襲ってこなかった。
「テメェら赤い奴と一緒にいた奴らだろ」
呆気にとられた。血走った目に荒い息遣い。おそよ普通とは言い難い姿をした者がまともに会話をするなんてユキは思ってもいなかった。
ユキが返事をするよりも早くガウルは言葉を続けた。
「アイツの所に行くつもりだろうがなァ、ムダだ。アイツはもう死んだからな」
ユージの身体がピクリと動いた。
『死んだ』―――ガウルはどこか悲しげにハッキリと言った。
「う……嘘だ!カルメールさんが死ぬはずない!!」
しかしユージは聞き入れなかった。
「嘘じゃねェ。死んだんだよ」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁッ!!!」
その声は今までのどんな声よりも大きく力強かった。
そんなユージの様子を見てガウルはため息をついた。
そして―――
「死んだっつってんだろ」
一瞬にして空気が凍り付いた。
静かに発せられたその言葉は有無を言わさぬ程の迫力を含んでいた。
ユージはガウルの言葉で金縛りにでもあったかのように動けなくなっていた。
「どいつもこいつもカスばっかり……」
ガウルはユージの頭に手を伸ばした。
だがしかしその手は空を掴んだ。
ガウルが頭を掴むよりも早くユキがユージを連れて『瞬間移動』で移動したのだ。
そんな様子を見てガウルはあからさまに不快な表情を見せた。
「何逃げてんだよ雑魚のクセによォ!」
ガウルはユキたちに跳びかかった。
砕けた爪がユキたちを襲う。しかしガウルの攻撃はまた空を切った。
「ちょこまかと……」
ユキはガウルが自分たちのほうを向く前に走り出した。
背後から叫び声のような者が聞こえたが無視した。遠くへ,とにかく遠くへと移動し続けた。
ビル街を抜け,住宅街を抜けた。そして、あまりにも不自然に現れた海を目の前にしてユキは足を止めた。
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