第10戦:決意

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「な……あっ……」  ユージは驚きで声が詰まっていた。  カルメールと出会って直ぐに地下で隠れていたユージにとってこの光景を見るのは初めてだった。  その横でユキは戸惑いの表情を見せていた。  辺りを見渡しても広がるのは広大な海ばかり。  引き返すにしてもおそらく獣人が追ってきている。 「こっちに」  そう言うとユキは海と陸の境目に沿って走り始めた。  そしてすぐにユキたちは衝撃の光景を目にすることになる。 「なに……これ」  目の前には首を噛み千切られ死んでいる少女の姿があった。  吐きそうだった。ディアンのときは逃げることで手一杯だった。だから無惨な光景を見ても何かを感じる余裕がなかった。  ユキがその光景から思わず目をそらすと,服を引っ張られる感覚がした。  なにかと思いユージの方を向くと 「ユ……ユキさん、あ……あそこ……」  ユージは声を震わせながら水面を指差していた。  ユキがユージの指差した場所を見るとそこには,二つの人が赤く染まった海の中に浮いていた。  そしてのその一つにユキは目を奪われた。 「まさかあそこにいるのって……」 「なんで……なんで……」  ユージは膝から崩れ落ちた。  海に浮かんでいるのは間違いなくカルメールだった。  何故,どうして,理解が追い付かなかった。 「もう……終わりだ……」  ユージがポツリと呟いた。頬には涙が伝っていた。 「カルメールさんがいなきゃ……」  ユージは完全に生気を失っていた。  カルメールの元へ行こうとするのでもなく,泣きじゃくるのでもなくただ茫然としていた。  ユキも茫然としていたが,我に返るとユージの手を引っ張った。 「まだカルメールさんは助かるかもしれない。行こう!」  だがユージはその手を乱暴に振り払った。 「無駄ですよ!見てわからないんですか!?もう死んでますよ,カルメールさんは!!死んでるんですよ……」  その言葉に答えることが出来なかった。  ユキも分かっていた。カルメールと別れてから随分と時間が経っている。それに獣人の言葉を信じるなら,生きている方がおかしいと。 「僕のせいなんです」 「え?」  そよ風でかき消えるのではないかという程,小さな声でユージは呟いた。 「僕がいたからカルメールさんは死んでしまった。僕と最初に会わなければ,僕が誰か他の人に殺されていればカルメールさんは死なずに済んだんです。僕が一緒にいたから,ユキさんもカルメールさんも危険な目に合っていたんです。僕が天恵を教えなかったから。一人になるのが怖かったから。全部全部僕のせいだ。僕が死ねばよかったんだ!生きたいなんて思わずにさっさと死んでおけばよかったんだ!!僕が……僕が……」 「ユージ君」  ユキが呼ぶとユージは顔を上げた。その顔は悲しみと怒り悔しさが入り混じり酷い有様だった。  そんなユージの頬をユキは叩いた。 「死ねばよかったなんて言わないで!カルメールさんはアタシたちを守るために戦ったんだ。だから……他の人はなんて言ってもいい。だけどあたしたちだけはそんなことを言っちゃいけない」 「でも……」 「生きるんだ。カルメールさんの分までアタシたちが絶対に」  ユキはユージの肩を掴み,じっとユージの瞳を見つめた。  そのまっすぐな瞳に,意思に当てられユージは立ち上がった。 「……わかりました。やりましょう」 「うん」  殺しを肯定するわけではない。楽しむわけでもない。生きるために,守るべき者のために戦う覚悟を決めた。  二人の意志は固まった。  だがユージは――― 「やるのは僕一人でやります。ユキさんは逃げてください。なるべく僕から遠くへ」  ユキとの共闘を拒んだ。 「なんで?二人でやったほうが―――」  勝率は上がる。  今更裏切る気もない。共に最後まで戦うつもりだった。  生き残ることが出来るのが一人だとしても。 「もう僕のせいで苦しんでほしくないんです。僕の天恵はユキさんを不幸にしてしまう。だからお願いします。逃げてください」 「そんなの勘違いだよ。今まではたまたまで」  ユージは首を横に振った。 「僕の天恵は『不幸体質(イニクオリティ)』。不幸を引き寄せてしまうんです。自分の意思と関係なく。だから言い出せなかった。言ったら見捨てられるに決まっていたから。怖くて言い出せなかったんです。ごめんなさい……」  一瞬の沈黙の後,ユキは手をあげた。  叩かれる。そう思ったユージは反射的に目を瞑った。  だがその手は優しくユージを包み込んだ。 「謝らないで。アタシはユージ君を見捨てたりなんかしない。だってあたしが今ここにいるのは,生きていられるのはユージ君たちがアタシを助けてくれたからだもん。不幸どころか幸福だよ。アタシはユージ君が何て言おうが一緒にいるよ」  ユージとカルメールのおかげで自分は今ここにいる。一度死んだも同然の命。恩人のために使わなくてどう使うというのか。  たとえユージを見捨てて生き残ったその先で,妹と共に胸を張って生きていけるのか。きっと出来ないだろう。  妹の命がかかっていようとも,目の前の恩人を見捨てていい理由にはならない。それがユキという人間の生き方だった。 「戦おう一緒に」 「――――――はいッ」
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