心の眼

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心の眼

東の空の底辺がやや赤みを帯び、一点の()みもない薄青い空が360度ひろがっています。 垣根付きの舗道を、シーは寸胴の身体でよちよちと歩き、おれのショルダーバッグの中のiPhoneからは、辻井伸行のピアノ演奏の音色が聴こえています。 その純真で流れるような音色は、まわりのスズメたちのさえずりとともに、朝の散歩のBGMです… ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が、流れはじめました。 曲の終盤第3楽章が訪れると、おれは薄青い透明な空を見上げ、盲目の彼の「心の眼」を通した純真でまっすぐな天から降りた神をも感じる演奏に、目頭が熱くなっていました。 シーが振り向いて、そんな涙ぐんだおれの顔をじっと見つめます… おれのような汚れきったこころにも、かれのようなまっすぐなものが残っているのであろうか…
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