心の眼

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おれが辻井伸行のことをはじめて知ったのは、2009年、彼がアメリカのヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した時でした。 連日、テレビニュースでコンクールの模様が取り上げられ、早朝おれは出勤の準備をしながら、若干20歳の盲目のピアニストを応援しました。 ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を、一心不乱で演奏し終えると、会場の観客は総立ちとなり惜しみない拍手が鳴りやみません… ファイナリストとなり、そして見事、日本人で初めて優勝を果たしました。 感激のあまり、優勝した模様のテレビニュースを何度も繰りかえし観ました。 涙を流す母親のいつ子さんの姿に、おれも涙が(あふ)れました。 さっそくテレビでは、彼のそれまでの人生を振りかえった特集番組が放送され、母親のいつ子さんの愛に(はぐく)まれた二人三脚の奇跡の数々を知ることができました。 生まれてから3日目に、眼科医から先天的な全盲の小眼球と診断されました。 でもあの笑顔を見ていると 二人で死ぬなんてこととても考えられない クリスマス・ツリーも私の顔も一生見ることができないのか、と泣き崩れた日もあったという。 しかし2歳を迎えたクリスマスの頃には、(たぐ)(まれ)な聴音能力によって、子ども用のピアノですでに35曲のレパートリーがありました。 ぼくは目が見えないんだね 母親のいつ子さんがなんて答えようかと思ったらすぐに でも いいや 僕ピアノが弾けるから
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