あらためて3月11日

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 1人の若い男性スタッフは、住んでいたアパートが津波に呑まれてしまった、と苦笑した。  別の若い女性スタッフは、お風呂に入れず髪の毛がくさい、と顔を(ゆが)めて笑った。  またもう1人のリーダー的な男性スタッフは、遠くの暗闇に小さく連なる道路照明灯を指差していった。  ──あの仙台東部道路まで津波が来たんだ。あれが防波堤になってくれて、ここまで津波が来なかった。津波に追いかけられ車であの下まで逃げて来た人たちは、車を捨てあの専用道路の斜面を駆け登ったらしいよ!  ──仙台東部道路は、仙台市の海岸から数キロ入った内陸を走る自動車専用道路で地上より3、4メートルほどの高さがあった──  ──みんな助かったの? とは誰も問わずに、一瞬、みんな黙ってしまった。やはり非現実的なつらい現実だった。それでもすぐに笑顔を取りもどし、しばらくいろいろな話しをつづけた。生き残れた実感をみんな噛みしめていたのかもしれない。  次の日オレは、近所にある祖母の家が井戸水でお風呂を沸かしていたので、その髪の毛がくさいといった若い女性スタッフたちを、祖母の家の伯母さんに頼んでお風呂に入れるように手配した。  施設から祖母の家に案内する途中、やっと髪の毛が洗えると若い女性スタッフたちは、女の子らしい笑顔でいっぱいだった。ひとりの女の子が夜空を見上げた。オレも星が小さく煌めく夜空を見上げた。宇宙の摂理を感じた。  みんながお風呂からあがると、伯母さんが用意してくれた漬物やお菓子を食べながらお茶を飲み、遅くまで賑やかに歓談した。それもおそらく非日常的な現実だった。 ──もちろんオレはビールを飲みたかったが、震災後はビールもなかなか手に入らなかった──  やはり3月11日は忘れられない。しかしながら、ハマスとイスラエルの戦争は、宇宙の摂理とは別のものだ。宇宙の摂理に反する生き物は、この地球上では人間しかいない。  今晩も冷えてきたのでエアコンの暖房をつけた。愛犬シーズーのシーは枕元で熟睡している。現実の中のオレは、YouTubeでカザ地区の映像をiPhoneで観ている。当事者にとってそれはまさに非現実的な現実なのだが…… a8e83d84-c607-4f9b-b356-97f6af674528
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