『晩年様式集』

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『晩年様式集』

 いまオレは、大江健三郎の最後の長編小説『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』を読みすすめている。 ──東日本大震災後の2013年、大江健三郎78歳時に発表──  最初の「前口上として」という章のあと、「余震の続くなかで」と続き、東日本大震災後の大江家の様子が描かれている。彼の文章は読みづらいことで有名だが、この長編小説も割と長い文章が多くとても読みづらい。また、彼の初期の短編小説『空の怪物アグイー』や長編小説『懐かしい年への手紙』について触れられており、それらの小説を読んでいない読者は、おそらく理解に苦しむだろう。  短編小説『空の怪物アグイー』は、とても魅力的な短編小説であり、この長編小説『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』のなかで、ふたたびアグイーが語られている部分にオレは感動すら覚えた。  ──ダイジョーブですよ、ダイジョーブですよ。アグイーが助けてくれますからね!  大江は「3・11後」、落ちた書物の山を書棚に戻すという退屈な繰り返しとしてのみ作業をしていたなかで、一冊の本を取り出し、読書ランプの下でページを(めく)る。赤黒い表紙に農耕用の大きなフォークに背を刺された人影が黒ぐろと描かれた表紙の本。イギリスの実力派の詩人によるダンテの『神曲』の「地獄篇」の翻訳本。  そうして彼は、自分の書き込みと赤線が引かれたページを読んでみる。  ──よつておぬしには了解できよう、未来の扉がとざされるやいなや、わしらの知識は、悉く死物となりはててしまふことが。──  正月に買ったMaison Margiela(メゾン マルジェラ)の人気の香水、レプリカ オードトワレ レイジーサンデーモーニングを手首にワンプッシュしてみる。公式には、清々しく晴れた日曜の朝の洗い立てのリネンのシーツの香りとあるが、まさにそんな香り。  さあ、そろそろ愛犬シーズーのシーと一緒に晩ご飯にしよう。シーには、添加物が一切入っていないモグワンというドライフードを食べてもらっている。もちろんオレはビールと日本酒! 冷凍食品の味噌ラーメンをチンし、LAWSONの玉ねぎサラダにマヨネーズをつけて…… 151eadf9-a79b-4ebf-b9c9-d5a4a9d52d08
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