『晩年様式集』その3 「サンチョ・パンサの灰毛驢馬」

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 そうしてついに、アカリと真木の四国行きのプランは実現した。あのサンチョ・パンサと灰色驢馬の絵を懐かしい額縁に入ったかたちで受け取り、しみじみそれに眺めいったアカリは、の雄弁を取り戻したという。  ──これは空から降りて来たアグイーを、僕が迎えている絵なんですよ! この前は、音楽室の広い方の窓の向うにアグイーが迎えに来たのを見て、こちらも上って行こうとしたのに、BSテレビのアンテナに引っかかって、落ちてしまった……その僕を見おろしてるアグイーの目は(灰色驢馬のことね、と真木は言い添えた)、この絵の通りでしたよ!  オレは、この長編小説『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』の「空の怪物が降りて来る」の章を読了し、不思議な大きな感動に包まれた。久しぶりに胸に込みあげて来るものを感じた。そしてこの「サンチョ・パンサの灰毛驢馬」の章を読了し、さらに大きな感動に包まれた。  ──アグイーが迎えに来たって!  だからこそこの章は、あらすじを辿るようになるべく詳細に書きたくなった。 ──もちろんオレはiPhoneで検索し、『ドン・キホーテ』の「サンチョ・パンサの灰毛驢馬」の挿画を見た──  大江健三郎の小説を読む人間はごく少数だ。ほとんどの人は読んでいないだろう。難解だというイメージがあり文章も平易ではない。しかし人間にとって、核心的な本当に大切なことが描かれているのだ。 dce8da4f-4f11-4441-805b-a5bdfbc627c1
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