『晩年様式集』その4 「カタストロフィー委員会」Papt1

2/2
前へ
/356ページ
次へ
 長江(大江健三郎自身がモデル)の知的障害者である長男のアカリ(長男ヒカリがモデル)が、音楽に没入する日々から初めて作曲を始めた後、四国の森の村へ行ってお祖母ちゃんから、子供の頃、森の奥で「森のフシギ」の音楽を聴いたと教わった。  大人たちは誰も信じないのに、アカリはお祖母ちゃんにその場所へ連れて行ってもらって、それを聴こうとしたという。その経験から、後にCDにもおさめられる「森のフシギ」の「主題」を作曲もした。 ──それをお祖母ちゃんに送ると、非常な喜び方だった──  やがてピアノのレッスンを受け弾けるようになったアカリは、お祖母さちゃんに教えてもらった森の奥の場所で、新しく作曲した「森のフシギ」の主題とフーガをキーボードで弾いた。亡きお祖母ちゃんの鎮魂に? というのではなく、それをやってアグイーを来させるつもりだった。  アグイーこそ降りて来なかったが、帰り道、もう妹の真木を頼らず歩いているアカリに彼女が質問した。  ──「森のフシギ」をあのようにしてアグイーに聴かせるつもりで、アカリさんはリッチャンとバッハを練習してたの? どうして始めからそれを話さなかったの?  ──誰も私に聞きませんでしたからね?  のちにその話しを聞いたギー・ジュニアは、長江にいった。  ──長江さん、僕たちにはアカリさんに聞かないことが沢山あるのじゃないですか? d9d25aa2-e498-4ccf-b39a-56cc3cca69bd
/356ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加