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春はあけぼの……
オレは毎週、『源氏物語』の作者紫式部の生涯を描いたNHKの大河ドラマ『光る君へ』を観ている。小説を執筆するひとりとして、紫式部(吉高由里子)がどのような人生を送りどのような女性であったのか、そしていかにして『源氏物語』が生まれたのか、とても興味深く視聴している。
先週放送された21話「旅立ち」では、兄らの窮地に立った中宮の藤原定子が、自らの髪を切り落とし出家の道を選ぶ。仕えていた定子をまもれなかったことを悔やむききょう(清少納言)は、まひろ(紫式部)に相談する。
まひろは、かつて天皇と定子に献上された高価な紙が、結局はききょうに譲られたという話を思い出し、その紙に定子のための文章を書くよう提案。そしてききょうは、まひろの助言に従い筆を執り、「春はあけぼの……」と綴りはじめる……
四季折々の風景を記して、寝たきりの定子の枕元に置くと、やがて定子は起き上がってその文章を読むほどに回復し、ききょうはひそかに喜びの涙を流した。
ききょうの所作や筆の運びの美しさとともに『枕草子』が愛のあふれるものとして描かれ、オレはとても感動した。 ──無学なオレは、紫式部と清少納言に交流があったことさえ知らなかった──
春は、あけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこし明かりて、紫だちたる雲の、細くたなびきたる。
春は、明け方。だんだんにはっきりしていく山の稜線に近い空が、少すこし明るくなって、紫がかった雲が、横に細長くかかっている。(現代訳)
明け方、愛犬シーズーのシーと散歩すると、東の空が底辺から赫く色づきはじめ、細長い雲が紫がかっていた。まさにあらためて読んだ『枕草子』の「春はあけぼの」の光景だ。平安時代に清少納言が感じた春の明け方の光景が、悠久の時を経て、オレとシーの眼前にひろがっていた。
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