Fier: Später reden

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 黙々と、読み通していく。質問もさせてもらえなさそうなので、アリエルはさっさと準備を進める意思表示だけして去っていった。  しかし、黒先生にはどうも聞きたいことがあった。問答無用であったとしても、聞くことで満足できる気がしていた。 「本当に……いいんですよね? 彼女で」 「またそれを聞くのですか。それで断定できると言っているではありませんか。納得できるでしょう?それほどのこそそれなのだと説明されれば」 「ええ、まあ……」  最初の文書に黒先生は目をやる。そこには、「観察対象:アイリア・トレーツ」とあった。 「んー、まあ今まで観察の機会が少なかったのも分かりますよ。彼女はそこまでコミュニケーションを得意としません。教師としてはやり辛かったでしょう。ですが今は違う立場として、やってほしいですね」 「はあ。それは、実験室の学者のような心持ちで臨めということですか?」 「半分正解なんですけど、半分違いますね」  そう言って、校長は立ち上がる。そして手に万年筆を持つと、優雅な所作で杖に、タクトに、そして羽ペン、また万年筆に戻す、という決めポーズをして、万年筆を黒先生の額に突きつける。寸止め。黒先生は身動きがとれなくなる。 「。それがあなたの立場。存分に私の研究に付き合ってもらいます」  黒先生は内心で、チクショウと叫んだ。
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