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ハズだった。
「だーっ!いつになったら見えんだ神社!!」
記之介は池沿いの道の中央で大の字に倒れる。
「おい、立て。南側へはもう少しだ」
前を歩いていた佐吉は疲れて寝転がった記之介に渇を入れる。
「だって!この池、でか過ぎんだよ!」
「それは見てわかる。だが、武士の小姓が道でそんな格好をして……はしたないぞ」
「別に誰も見てねぇんだからいいじゃんかー」
「良くない!ほら立て!」
佐吉は寝転がる記之介の襟首を掴み、立たせようとする。
2人がわーわー言い合っていると、佐吉はこちらを見てくる視線に気がついた。
佐吉の様子に記之介もつられて気がつく。
「誰かに見られている……?」
先程までとは打って変わり、記之介はすぐに立ち上がり、2人揃って周囲を警戒する。
「村の人間か?」
「にしては強い殺気を感じる……」
辺り一帯の緊張状態は続くものの、それはある一言で一瞬にして解かれる。
「ランちゃんそこでなにしてんの?」
透き通った訛りのある声がその辺り一帯に響く。
「「らんちゃん?」」
2人は揃って声のする方を向いた。
そこはちょっとした茂みと木が並んでおり、すぐ側には少女が1人立っていた。
彼女は水色の襟巻きに淡い黄色の着物を身に付けており、透き通るような輝く青色の髪には黄色の髪紐で左右に小さく編み込まれている。
13か14くらいだろうか。
少なくとも記之介に歳の近い見た目の少女であった。
どうやら彼女が声の主のようだ。
そしてその近くには別の誰かがいるらしく、少女の視線はずっと小姓の2人から陰になる木の反対側を見ていた。
よく見ると、その側に別の人影がある。
「あの人らは知り合いなん?」
少女は問いかけるもその人影は黙ったままなにも言わない。
気になった記之介がそろりとその人影の方へと歩み寄る。
少し寄ると人影の正体が徐々に露になる。
その人影は少女よりも背が高く、記之介と似た装いをした少年であった。
その顔を見て記之介は「あー!」っと叫ぶ。
その声に佐吉も記之介の元へ駆け寄りその人影の正体を目の当たりにする。
「お、お前は……!」
2人は少年に見覚えがあった。
元服前の装いと髪を下で一つにまとめた少年。
「「森蘭丸!?」」
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