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千代は待つように言われ、屋敷の縁側に手荷物を膝に置き、おとなしく座っていた。
「一事はどうなるかと思っていたけど……よかった」
千代は事が上手くいき心が少しばかり踊っていた。
すると、何やらわちゃわちゃと明るい話し声が聞こえてくる。
近所の子どもらがお参りにでも来たのだろうか。
その縁側からは神社の入口にあたる鳥居が見えており、千代はその場からそちらに目を向けた。
声が近づき、その主らしき者達がやってきた。のだが、
(狐と狸?)
やってきたのは白い毛並みに黄色の混じった狐と、茶色の毛並みに焦げ茶色の混じった狸の姿だった。
千代は2匹にじっと目を凝らす。
(狐と狸が一緒にいるなんて、珍しい)
そんなことを思っていると、また声がした。
「あれは誰かしら?」
(え?)
千代は周囲を見渡したが、狐と狸以外に人がいない。
「こっち見てる?というか、ボクたちのこと見てる?」
また声がする。
千代の目がその狐と狸の目と合った。
(え?この声って……まさか、そんなわけ……)
千代は耳を済ませながら目を凝らす。
「でも、普通の人間よね?見えるわけないわ」
「だよねー。普通は見えないよねー。でも気になるから行ってみようよ」
狐と狸は千代の方へ近づいてくる。
(なんか来た!)
千代の目の前に着いた2匹は口を開いた。
「ほら、普通の人間じゃないか」
「ほんとだ」
千代は確信した。
子どものような声の主の正体を。
「やっぱり喋ってる!?」
「「やっぱ見えてた!?」」
千代の大声と反応に狐と狸は驚いた。
間もなくして煉が屋敷の外からやってくると3人の様子に「どうしたん?」と問いかけた。
「煉様、この狐と狸が……」
千代はこの状況に理解ができず、煉に問う。
「なんや、千代は2人が見えてるんか」
「見えてる?」
煉の言葉に千代は顔をしかめる。
「こいつらは狐と狸の妖怪。普通、ただの人間には見えへん生き物なんやけど」
「コマルと言います」
「コマリです」
狐と狸の妖怪達は千代の前でぺこりと頭を下げる。
千代もつられて「千代です。よろしく」と頭を下げた。
「えらい早いな」
「常に備えていますので」
狐のコマルはえっへんと胸を張る。
「煉様、もしや彼女が……」
コマリは千代を見て問いかける。
「な、似とるやろ?」
2匹の妖怪はじっと千代を見て、
「確かに……」
「気配は全く別人ですが、見た目だけなら……」
2匹はコクコクと頷く。
「揃ったな」
霜月も準備ができ、屋敷の中から顔を出す。
「では、行こか」
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