序章

5/6
前へ
/19ページ
次へ
 千代は待つように言われ、屋敷の縁側に手荷物を膝に置き、おとなしく座っていた。 「一事はどうなるかと思っていたけど……よかった」  千代は事が上手くいき心が少しばかり踊っていた。  すると、何やらわちゃわちゃと明るい話し声が聞こえてくる。  近所の子どもらがお参りにでも来たのだろうか。  その縁側からは神社の入口にあたる鳥居が見えており、千代はその場からそちらに目を向けた。  声が近づき、その主らしき者達がやってきた。のだが、  (狐と狸?)  やってきたのは白い毛並みに黄色の混じった狐と、茶色の毛並みに焦げ茶色の混じった狸の姿だった。  千代は2匹にじっと目を凝らす。  (狐と狸が一緒にいるなんて、珍しい)  そんなことを思っていると、また声がした。 「あれは誰かしら?」  (え?)  千代は周囲を見渡したが、狐と狸以外に人がいない。 「こっち見てる?というか、ボクたちのこと見てる?」  また声がする。  千代の目がその狐と狸の目と合った。  (え?この声って……まさか、そんなわけ……)  千代は耳を済ませながら目を凝らす。 「でも、普通の人間よね?見えるわけないわ」 「だよねー。普通は見えないよねー。でも気になるから行ってみようよ」  狐と狸は千代の方へ近づいてくる。  (なんか来た!)  千代の目の前に着いた2匹は口を開いた。 「ほら、普通の人間じゃないか」 「ほんとだ」  千代は確信した。  子どものような声の主の正体を。 「やっぱり喋ってる!?」 「「やっぱ見えてた!?」」  千代の大声と反応に狐と狸は驚いた。  間もなくして煉が屋敷の外からやってくると3人の様子に「どうしたん?」と問いかけた。 「煉様、この狐と狸が……」  千代はこの状況に理解ができず、煉に問う。 「なんや、千代は2人が見えてるんか」 「見えてる?」  煉の言葉に千代は顔をしかめる。 「こいつらは狐と狸の妖怪。普通、ただの人間には見えへん生き物なんやけど」 「コマルと言います」 「コマリです」  狐と狸の妖怪達は千代の前でぺこりと頭を下げる。  千代もつられて「千代です。よろしく」と頭を下げた。 「えらい早いな」 「常に備えていますので」  狐のコマルはえっへんと胸を張る。 「煉様、もしや彼女が……」  コマリは千代を見て問いかける。 「な、似とるやろ?」  2匹の妖怪はじっと千代を見て、 「確かに……」 「気配は全く別人ですが、見た目だけなら……」  2匹はコクコクと頷く。 「揃ったな」  霜月も準備ができ、屋敷の中から顔を出す。 「では、行こか」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加