序章

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 一行は神社のある山城国から南の大和国へ渡り、伊勢国がある東へと進む。  徒歩のため一日とはいかず、途中、宿もない山で野宿となった。  煉は大きく伸びをすると頭の後ろで手を組む。 「にしても、また大蛇退治する言うことになるなんてな」 「ついこの間のようなものですしね」  コマルは煉の座る倒木の側で丸くなっている。 「ましてやこの頻度……少し多すぎません?」  コマリは千代の膝の上にちょこんと座り、霜月を見る。  どうやらコマリは千代のことが気に入ったようだ。 「戦ばかりの世の中やからな……」  霜月は焚き火が消えないよう、薪を入れる。  4人の会話に千代は「あのう」と恐る恐る入る。 「珍しいことなのですか?」 「ああ。最初は平安時代やったらしい。そうやろ?」  煉はコマルとコマリに問いかける。  二匹の妖怪は霜月や煉達がよりも長生きで、安倍晴明の居た平安の時代から生きている。 「そうです。ボク達がまだ晴明様に遣えていた頃のことです」 「2体目は鎌倉に幕府があった頃」 「そして、3、4体目がつい3年前の話や」 「長いのですね……」 「せやな。まあ、いつ現れるかわからん。そのために備えとけって言うんが昔から俺達に与えられた使命やからな」  煉は腕を組んで「うんうん」と頷く。  そんな彼らを見て、千代は問いかける。 「霜月様も仰っていましたね。八岐大蛇を倒すことが『役目』だと」  霜月は千代の言葉に「ああ」と短く返事をする。 「恐ろしくはないのですか?」  千代は前のめりになって問いかけるも、その姿に皆、すぐには答えられなかった。 「私は祖父から聞いた『化け物の姿』しか知りません。その化け物によって父や村の人たちが亡くなっています。それに今度は村が無くなるかもしれない事態になっていますし……」  千代の手は小さく震えていた。  それは千代が触れていたコマリだけでなく、その場に居た全員に伝わる。 「確かに恐ろしかったな……」  先に口を開いたのは煉だった。  頭の後ろに回した手を顔の前にする。 「こんな化け物を俺らの御先祖さんは殺ったんかって……そう考えたら、俺らも負けてられへんな、ってな」  煉は握りしめた拳を見てから、千代を見る。 「やから、恐ろしないなんて、誰も思わんて。やからこそ俺らがやらなって思うやん」  煉は「な、シモ?」と霜月に同意を得ようとしたが、彼は違った。  霜月はため息をつくと、焚き火を遠い目で見つめる。 「初めて見た時、恐怖よりも、憎い思った」  炎の中で薪がパキンッと音を立て、チリチリと火の粉が舞う。 「あんな化け物が突然現れては簡単に人や土地を壊して、その度に先代達は苦しんで……」  その言葉にコマルとコマリは顔を見合わせる。  彼らは八岐大蛇の邪気退治に最初の頃から関わっており、何度も邪気によって壊れた地と亡くなった人々を目の当たりにしている。  そして、時川の先代達がどのように暮らしてきたのか、見てきたからだ。  霜月は「やけど」と付け加える。 「あのままやったら、俺が邪気に取り憑かれとった。あいつらが居ったから、そうは成らずに済んだんかもしれへんな……」 「あいつら……?」 「ほんまやな。前の大蛇退治にはえらい助けられたな」  霜月達が懐かしむ中、千代は一人、首を傾げる。 「実は前の戦いの時、俺らに協力してくれた武士らが居ってな」 「武士、ですか?」  千代は驚いた。  『武士』に対して、庶民に協力的な想像がつかないからだ。 「まぁ、最初は信用できんかったけど、いいやつらやったな」  煉は自慢気に懐かしむも、妖怪2匹は相槌で「バッチバチでしたけどね」「やってましたねぇ」と、最後に「煉様が」と口を揃えて言う。  「なんで、俺だけ!?」と煉は2匹を睨み付ける。 「それで、どのような方なのですか?どのようにしてその武士とであったのです?」  千代の問いかけに、霜月は口を閉ざすも、すぐに開いた。 「……もう遅い。話せば長くなる」  霜月は「早く寝ろ」と追いやるように手をヒラヒラさせる。  千代は霜月の言葉に肩を落とし、それに気を遣った煉が「まあまあ」と霜月に提案する。 「少しずつ話してもいいんとちゃう?これから戦う奴の予習にもなるやろうし」  煉の言葉に霜月はため息を一つつくと、仕方なく、語ることにした。 「出会ったきっかけは、俺の再従兄弟に当たる〝水無月〟がそいつらを連れてきたことやった」
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