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運命の赤い糸
八百万の神々には年に一度、男女の縁を糸で結ぶ大仕事があるんだとか。人間はそれを"運命の赤い糸"と呼んでいるらしい。
"いつか結ばれる男女は、生まれた時から互いの小指を赤い糸で結ばれている――"
アホか。んなわけねぇだろ。そんなデマ信じてる奴などいるわけねぇと思ったら、
「私っ、運命の糸は絶対にあると思う〜!」
いたっ!!
家の前でお守りを受け取った花耶は、そう言って笑った。ほんのり頬を赤くして、長いストレートの髪を風に遊ばせながら、押し花の台紙に付いた赤い糸のお守りを握りしめている。はしゃぐ姿もすげぇ可愛い! じゃなくてっ、今は臨戦体勢を維持しなければならん。ちゃっかり縁結びの道具なんぞ渡した不届き者はカヤを狙ってるんだ。
「先輩がくれた押し花の栞、とても可愛かったので、カラーコピーして神社で販売してる良縁結びの赤生糸の台座にしてみたんですよ」
爽やかに微笑んだ男はカヤの後輩、渡里羊助。高1。カヤと同じ環境委員で華道部の花好き男子でありながら、空手の黒帯と剣道4段を持つ秀才のイケメン………というのは表向き。
オレはヤツの本性を知っている。
コイツはおとなしい草食系男子なんかじゃない。性悪な疫病神を祀る近所の神社の跡取りで、笑顔の裏に狡猾な男の顔を隠してる肉食系ストーカー野郎だ。
ったく、日曜だってのに昼寝もしてられねぇ。うちに来る害獣が後を絶たないのは、カヤが可憐で麗しいからなんだが、おかげでオレは常にこうして塀の上から目を光らせてなきゃならん。カヤを狙う輩を駆除する為にな。
「先輩に早く見せたくて、社務所の仕事サボってきちゃいました」
白い着物に水色の袴を履いた疫病神の下僕が、にっこりと微笑んだ。
「良縁結びのお守りは神社の売れ筋商品なんですが、先輩の栞のおかげで凄くオシャレになりましたよ」
「お役に立てたなら嬉しいけど、お守りに使われるなんて、ちょっと恥ずかしぃな~」
モジモジしているカヤを満足そうに見下ろして、ラム助が言う。
「先輩、それもらってくれますか? 栞を使わせて頂いたお礼です。御祈祷してありますから、ご利益はちゃんとありますよ」
「いいの!? 渡里君ありがとう!」
「先輩の運命の赤い糸が、僕の小指に結ばれてると嬉しいんですけどね」
「!」
カヤの頬がポワっと赤く染まった瞬間、
『待てコラァァァッ』
危険な匂いを感知した。塀からジャンプしたオレは、着地すると同時にヤツとカヤの間に割り込んだ。驚いて後退ったヤツを睨み、豪快に牙を剥く。
『サラっと口説いてんじゃねぇぞクソがぁッ』
「わっ、びっくりしたぁっ」
「アラン!?」
後ろでカヤの慌てた声がしたが、対照的にラム助は冷静さを取り戻している。癪に障る笑顔で上から微笑みかけてきた。
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