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「やあ、アラン君。今日も元気だね」
『うるせぇッ』
「頭撫でていい?」
『オレに触れたらテメェの粗チン食いちぎってやるッ』
「ハハハ、吠える姿も可愛いなぁ」
頭上からカヤの笑い声が降ってきた。
「アランと渡里君、すっかり仲良しだね」
「はい!」
『どこがっ』
心優しいカヤは人を疑う事を知らない。後輩が淫らな欲望を隠しているとは夢にも思っていないだろう。それをいいことに、羊の皮を被った狼男はカヤを手に入れようと企んでいるのだ。今も、爽やかな笑顔で言葉巧みにカヤを誘惑している。
「そうだ先輩、僕とラインしてくれませんか? 部活の事とか連絡取るのに便利なので」
「うん、いいよ。スマホ取ってくるね」
『あッ、テメェッ、どさくさに紛れてカヤとスマホで繋がるな!』
携帯電話を取りに行ったカヤが家の中に入った直後、この時を待っていたかのようにラム助が言った。
「……アラン君、実は来週の日曜に僕、先輩と野花を見に山に行くんだよね」
『んだとぉッ』
「怒らないでよ。遊びにぐらい誘うさ。だって僕、君のご主人が好きなんだから』
『このヤロゥ……!!』
オレの堪忍袋が切れる寸前で、カヤが家から出てきた。手にスマホを握りしめて駆け寄ってくる。
「待たせてごめんねぇっ」
「大丈夫です。アラン君と遊んでたので」
『テメェとなんか遊ばねーわボケ!』
気恥ずかしげな笑顔を浮かべて、カヤがスマホのカバーを開いた。
「えっと、ラインね……わっ! これスマホじゃなくて手帳だったぁ!」
「先輩ってばカ~ワイ~。ほんと、そういうとこ大好きです」
「スマホ取ってくるぅぅぅっ」
真っ赤な顔で家に戻ったカヤを見送るヤツの眼が、妖しく光ったのは決して気のせいじゃない。
純粋無垢でちょっと天然な可愛いオレのご主人は、オオカミ男に狙われている。
くそっ、 カヤを守りたいのにっ。
愛してるって言葉で伝えたいのにっ……
どうしてオレは、チワワなんだよぉ〜……
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