けもの

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 気配が無くなったと気づいたのは、もう夕方近くだった。家の中に、もうあの女の姿はない。箪笥を開けると、ここに来るより古くから持っていたらしい黒の洋服も消えている。  なぜか、すとんと腑に落ちるものがあった。  自分には勿体ない女だった。子はできなかったが、家のことはよくやってくれたし、よく自分を立ててくれたのも確か。  と同時に、その不思議な佇まい故か、どこまで近づいても互いを隔てる薄い膜があった。けれど、その奥にある本物を見るためだけに、最後の砦たるものを突き破るのはなぜか憚られてしまい、今に至る。  思いとどまらせていたのは、あの女の弱さだ。裸にするだけのはずが、皮を捲って、肉を削ぎ、骨に自分の爪を食い込ませるようなことになりそうで。それに耐えるに、アレはあまりに軟すぎたのだから、仕方がない。  きっと本人もそれを理解していたのだろう。それも出会った瞬間から。だからこそ、こうなるという約束を約束通りに履行した。そういうことだ。  一定の結論を出した気になったところで、ようやく毛を拾い集めることにした。
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