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できた。という満足と共に、枕の上に寝かせてやった。これで今夜からは、また二人だ。窓の向こうは蛙の合唱。湿り気を帯びた空気がゆるやかに流れて頬を撫でた。その優しさを打払うようにして、団扇をあおいでいると、からりと網戸が開く音がする。
強い風でもないのに、おやと思って見遣ると、黒い影があった。何だろう。のそりと立ち上がって灯りをつけようとすると、寝間着の裾が下に引っ張られている。
おそるおそる足元を見た。
獣が、いた。
しかも、僅かな月明かりの中、目があった。
「返してちょうだい」
狼に似ている気がする。耳がぴんと立っていて、犬よりも立派な足が床を踏みしめていた。そして、普通であれば人語を話さないような姿に見える。
「出ていけ」
空耳だったのだろうか。とにかく気味が悪い。追い払うために、壁に立て掛けてあった布団叩きを手に取るも、足が竦んで動けない。
「それは、私のよ」
また喋った。と思った瞬間、頭の中に稲妻が走る。これは。この声は。指先から頭の天辺まで鳥肌が立って、息をするのを忘れそうになる。
「いや、これは、私のだ」
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