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咄嗟に言い返す。獣の視線の向こうにあるのは、あの出来損ないの人形だ。馬鹿のように面倒な作業を繰り替えして作ったから、という理由からではない。なぜなら、あれは――。
「これは、ここへは置いておけないの」
獣が人形に飛びかかって、食いちぎろうと牙を立てた。その体が強い光を放ち、辺りを照らす。白と黒の斑の毛並み。ただただ、禍々しい。
「駄目だ」
負けじと手を伸ばすと、またもや指にささる、あの女の毛。血が出ても構わなかった。今になって、どうしても、どうしても、欲しくて縋りたくて守りたくてたまらなくなる。
これは、私だけの、綺麗なままの記憶を閉じ込めているはずの玉手箱。誰であれ、渡すことなどできやしない。ましてや、開けたならば最後。きっと、知りたくないことを目の当たりにしてしまう。
必死なのはお互い様だ。
人形を思い切り引き合った。
すると、当然のことながら、千切れた。
ふぁさよ、ふぁささ、さらららら
あの日のように、髪が散って、床に降り注ぐ。かと思いきや、獣が放つ光の下、それらは全て一瞬煌いた後、宙に溶けて見えなくなった。
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