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呆気にとられていた。燃え尽きかけた線香花火のよう。怒りすら霧散する程、美しい。
「おい」
獣の眼光は、たちまち緩やかになっていった。
「何?」
その仕草は、あの女と同じだ。
「戻ってこないのか」
獣は、犬のようにくうんと鳴くと、背を向けて行ってしまった。
どこへ向かうのだろうか。網戸の向こうに消え行く姿。残されたのは暗闇。後から聞こえた遠吠えは、勝鬨のようで。
ついに、目元をくしゃりと歪めた。鼻の奥がツンとして痛いのは、気のせいではないのだろう。
毛のなくなった人形が死んだように倒れている。たぶんアレは、自分だ。
置いていかれてしまったのだ。
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