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ぐつぐつと沸騰した鍋の中に茶葉を入れてから火を止めて、蓋をして少し蒸らす。その間に、小皿に角砂糖を三個用意する。園子さんは俯いてしまって、顔が見えなかった。鍋に牛乳を注いで軽く混ぜ、再び火にかける。今度は沸騰させないように、慎重に様子を見ながら待つ。鍋の縁からふつふつとしてきたところで火を止めて、茶漉しを使って丁寧にカップに注ぐ。そのタイミングで立ち上がった鏑木を片手で制した。
「今日は俺が」
トレーにミルクティーを入れたカップと角砂糖の小皿、金色のスプーンを乗せて、園子さんの席に持っていく。俺はなんとなく園子さんの隣に腰掛けた。園子さんは少し戸惑った顔をしながら、角砂糖を一つずつ指でつまんで、カップに落としていった。聞いていた通り、園子さんは角砂糖を三個、ミルクティーに溶かした。
「そんなに甘くして、気持ち悪くならない?」
「すみません、せっかくの味をダメにしてますよね。でも、これが好きなんです」
園子さんはそう言って一口飲むと、ふにゃっと緩んだ顔をした。俺はミルクティーを飲んでいないのに、ぶわっと口の中が甘くなった気がした。
「はぁ、おいし……しあわせ」
園子さんは目を閉じて小さな声でそう呟いた。無意識に園子さんの頭に手を伸ばそうとしている自分に気づいて、慌てて立ち上がる。
「ごゆっくりどうぞ」
俺はそれからおかしくなった。店内の椅子に足をやたらとぶつけたり、じゃがいもの皮を延々と剥いてしまったり。それから、ずっと口の中が甘くて。コーヒーを飲んでみても治まらない。いつまでも喉の奥に甘いのがひっかかって取れない。
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