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「え? いやです」
声とともにすごい音がした。振り返ると店長さんは床に倒れこんでいる。
「毎日来てほしいです。あ、忙しいのか。じゃあ俺が行きます。オムライス作りに行きますから」
店長さんは椅子をなぎ倒しながらわたしの目の前にやってきた。恐い顔でもなく、優しい顔でもなく、焦っている。そんな表情だった。
「オムライス、作ってくれるんですか? わたしのために?」
「園子さんのために、作りたいです。ミルクティーも淹れます」
店長さんの大きな手がわたしの両肩に落ちてくる。やっぱり優しい手だ。この手に包まれてみたくて、思い切って店長さんの胸におでこを寄せてみる。
「わたし、お砂糖いっぱい入れちゃいますよ?」
「いいですよ、とびきり甘くします」
「……やっぱりお店毎日来ます。忙しいは、嘘です」
店長さんの手がわたしの頭を撫でる。店長さんの大きな体に腕を回してみると、そっと抱き返してくれた。
カシャカシャっという音に顔を上げると、鏑木さんがスマホを片手に満足げに笑っていた。
完
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