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鏑木が働きだして、早二年。俺に対する失礼極まりない態度で接客なんてできるのだろうかと心配だったが、人の懐に入るのがうまいというのか、鏑木のおかげで常連客が増えたといっても過言ではない。
「なあ、鏑木よ。俺の顔はそんなに恐いか?」
ランチタイムが終了し、賄いを頬張る鏑木に問いかける。
「店長、残念ながら熊のように恐いですよ。笑顔の練習したほうがいいです」
ああでも、と鏑木は口元のソースを拭って話を続ける。
「あの子のこと見てほんわかしてる店長はちょっとかわいいです」
「は? かわいい? 俺が?」
鏑木に詰め寄ると「その顔は恐いって」とデコピンを食らわされた。
「なんか、優しい顔してるんですよ。あ、店長。新しい情報仕入れたんですけど、知りたいですか?」
どうせまた大した情報じゃないんだろうと思いながらも、彼女のことをもっと知りたいという気持ちもあり、曖昧に頷く。
「ランチメニューの中では、オムライスが好きだと言ってました。あとミルクティーを飲む時間は至福の時、だそうです」
鏑木はパチンとウインクをした。
彼女は俺が作ったオムライスが好き。
俺が淹れたミルクティーを飲む時間が至福の時。
それは、すごくいいな。
もしも、目の前で俺が作ったオムライスを食べて、ミルクティーを飲んで、あの笑顔を見せてくれたら。
カシャッという音に鏑木のほうを向くと、スマホを構えて満足そうにしている。「めっちゃいい顔撮れましたよ」と今しがた撮影したのであろう写真を見せてくる。間違いなく俺の顔だったが、締まりがなく、だらしない顔をしていた。
「これです。この顔超かわいい」
こんな顔で彼女を見つめていたのかと思うとぞっとする。怖がられるのと気持ち悪がられるのならどちらがマシだろうか。……どちらも最悪だ。
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