わたしと店長さん

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わたしと店長さん

 最近は全然調子がよくない。体調はすこぶるいいのだけど。  十八歳で少女漫画家としてデビューしたわたしは、毎日毎日担当さんにダメ出しを食らっている。  デビュー作とその次くらいは、若い読者からは「共感できる。わたしの恋愛バイブル」なんて言われて、もう少し大人の世代からは「青春時代を思い出して、ドキドキしてます」とかそんな内容のファンレターをもらっていた。  ここ最近言われることは、前の作品と似たり寄ったりで、新鮮さがない。面白味がない。そんなのわたしが一番わかっている。青春時代なんてとっくに終わったわたしに、そんな話はもう描けないのかもしれない。  じゃあいっそ、大人向けの漫画に挑戦してみたらどうですかって提案されたのが一週間前。わたしなりのイメージで描いてみたネームはことごとく突き返される。 「なんか違うんですよねぇ。リアリティがないっていうか」  そりゃそうでしょうよ。わたしが最後にした恋は、高校時代。その恋だって、成就してないし。恋をして、ふたりの距離が近づいて、恋人になる、というプロセスも、その先も、わたしは知らない。  近所のカフェでおいしいお昼ご飯を食べて、甘いミルクティーを飲むのが日課だったけれど、今日は気分が落ち込みすぎて家から出られなかった。
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