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「そんな理由なら俺に譲ってください」
そんな理由って。わたしの至福の時間をなんだと思ってるんだ、と睨みつけると、お兄さんは腕時計に目を落とした後、何かを呟いてわたしの手首を掴んだ。
「ミルクティーなら俺が淹れるから」
そう言ってレジにたどり着くと、お兄さんはさっさと支払いを終えてしまった。
この人勝手すぎない?
しかも、この顔でミルクティーって似合わないって。
言葉には出せないまま、目の前の男への文句が心の中でぐるぐると渦巻いていく。
お兄さんは左手に牛乳を、右手にわたしの手首を掴んでずんずんと歩いていく。背の高いお兄さんの一歩はかなり大きくて、わたしは必死でついていくしかなかった。一体どこに向かっているのか。この人はわたしを家に連れ込もうとしているのだろうか。駅前の大通りから外れたら、もう逃げるチャンスはなくなってしまう。
「あの、ミルクティーは諦めますから放してください」
息を大きく吸って、立ち止まってそう言ってみた。そしたら、お兄さんはなんだか悲しそうな顔をした。
「俺が、貴女に飲んでほしいんですよ」
お兄さんはわたしの目線に合わせるように身を屈めた。
「今日、店に来てくれなかったから、心配しました」
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