わたしと店長さん

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 今日店に来てくれなかったから。この人は今そう言った。わたしが行く店なんて、あのカフェだけだ。 「もしかして、店長さんですか? ごめんなさい、わたし、お顔知らなくて」  わたしの問いかけに、お兄さんはああっと声を出し、右手で目元を覆った。 「すみません。俺はいつも貴女のこと見てたので。そうですよね。いつも来てくれて嬉しかったんです。本当に。いつもありがとうございます」  店長さんは通りの真ん中でわたしに深々と頭を下げた。 「ええっと、こちらこそいつもおいしいご飯とミルクティーをありがとうございます」  つられてわたしも直角に体を折り曲げる。  『いつも貴女のこと見てた』という言葉に、胸の奥がぽっと温まる。その一方で、あの店員の女の子が頭に浮かんだ。いつもって、そりゃ毎日通ってるんだし、常連の顔くらい覚えてて当然だ。 「それで、ミルクティー淹れますから、今から店に来ませんか?」  いつの間にか顔を上げていた店長さんがわたしの肩を優しく叩いた。わたしが頷くと、店長さんは「よかった」と微笑んで歩き始めた。その表情が、すごく優しくて、この人が作るからあのオムライスは優しい味がするんだなって納得した。  さっきまで掴まれていた手首が寂しい。あの大きくて優しい手は、あの女の子のためにあるんだと思うと苦しくなってくる。店長さんの歩幅はやっぱり広くて、どんどん先に行ってしまうのを数歩ごとに駆け足で追いかける。
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