112人が本棚に入れています
本棚に追加
声が響いて店内が静まる。
みどりは、茜同様孤児で
幼い頃に“売られる”寸でで
ここの女将に拾われた。
“上の姉”と呼んでる晶子も同じ。
女将を母と慕い、
“姉妹”共々懸命に戦中も
寄り添い生きてきた
この天満屋は家庭そのもの。
だから…妹と可愛いがる茜が
いつまでも宙ぶらりんなことに…
煮え切らない正に
業を煮やしたのだ。
しかしながら…ここにいる
春紀等同僚も、正の人柄は無論
正のシベリアでの苦労や
帰還後の苦しみを知っている。
新しい暮らしに踏み込めぬ
正の身中は察するに余りあった。
巧い言葉が誰も
見つけられない沈黙を
「みどり、煙草を買うてきてくれ」
あの常連の着物男性が破った。
最初のコメントを投稿しよう!