春を待つ日々

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声が響いて店内が静まる。 みどりは、茜同様孤児で 幼い頃に“売られる”寸でで ここの女将に拾われた。 “上の姉”と呼んでる晶子も同じ。 女将を母と慕い、 “姉妹”共々懸命に戦中も 寄り添い生きてきた この天満屋は家庭そのもの。 だから…妹と可愛いがる茜が いつまでも宙ぶらりんなことに… 煮え切らない正に 業を煮やしたのだ。 しかしながら…ここにいる 春紀等同僚も、正の人柄は無論 正のシベリアでの苦労や 帰還後の苦しみを知っている。 新しい暮らしに踏み込めぬ 正の身中は察するに余りあった。 巧い言葉が誰も 見つけられない沈黙を 「みどり、煙草を()うてきてくれ」 あの常連の着物男性が破った。  
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