春を待つ日々

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まるで本に栞を挟むような 穏やかながらも  “今日はここまで” と言うような線をピシッと引く語調。 「いってきます…」 みどりは素直に従った。 空気を察した女将が 「富山からブリが来てん。  ヤッさん捌いてや!!」 陽気にもう一人の常連に声をかけ、 「俺、酒持ってくるわ!」 他の男が元気に奥へ行く。 喧騒がやや戻り出した中… ボンヤリ机を見ている正。 春紀が微温(ぬる)いグラスから 冷えたビールの入ったものに 取り替えて渡した。 そこへ出前から帰ってきた茜、 「やっぱり秋やなあ、  夜は冷えてきたあ」 入れ代わりに 「俺…宿へ戻る…」 正が外へ。 「え?どうしたん?  もう帰るの?」 正を追いそうになる茜に 「ちょっと仕事のことで  みんなで言い合いになった。  大したことやない。  でも今夜は…このまま…」 春紀の言葉に 「わかりました」 茜は微笑んだ。
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