春を待つ日々

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「御主人以上の実業家ですね」 春紀が褒めると 「主人が敷いてきた基盤が  あるから出来るのよ」 蓉子には奢りがない。 ないから、人が集まり、 知恵が生まれる。 「調布へ移ってからも  奥様の手伝いはしたいのです。  もちろん、家事を一番に」 志保の意向に 「君のしたいようにすれば  いいんだよ。暮らし良ければ  それで良いんだ」 自分で言っておいて 春紀は可笑しい気がした。 (“女は家”で夫に従う) 若い頃には、それに疑問はなかった。 紀州にいた頃と違う考えが 自発するのは、戦後の風か、 東京の風のせいかは判らぬが 春紀という名になった亮一には 心地悪いものではなかった。
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