春を待つ日々

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正が“心細い”ようなことを いうものだから 浅草寺前の人混みで 志保と樹が見当たらなくて 春紀はいつになく慌てた。 なんのことはなく 身体の大きな相撲取りの陰に 二人の姿が見えなかっただけ。 屋台や出店にはしゃぐ樹は また少し大きくなったようだ。 (たま子はどれくらいに…) ふと過る春紀。 志保は髪飾りの店に立ち寄った。 「好きなものを選びなさい」 すると志保が選んだのは 赤い絞りのボンボリが可愛い 娘用の品物……。 「いつかお嬢さんに渡せる日が  来るまで、ちゃんと仕舞って  おきますわ」 (こういうひとだから…) 春紀は志保の肩を抱いて 幸せを噛み締めた……。
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