春を待つ日々

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「随分高価なものですね…」 月末に、即隆から 届いた小包の真ん中から、 美しい袱紗にくるまれた小刀を 志保は、両手に乗せて 春紀に差し出した。 即隆からの手紙を畳に置いて、 春紀は小刀を手に。 「馬鹿だなあ…年玉で  好きなものでも買えば  …買えば…良いのに…」 袱紗に涙が落ちて 春紀は慌てて拭った。 「必ずや…笑って会える日は  やってきますとも!それまでに  ひとつでもたくさん…  貴方の手で、嫁入り道具を  作っておかなくちゃ」 志保は春紀の手を取って微笑んだ。 (そうだ…今はこうして  一緒に寂しさを分かち合える  家族がいるのだ…以前とは違う。  まずは自分の幸福を築こう。  この運命を笑って吹き飛ばせる  人間になって…誰にも負い目を  もたせることない…  誰も傷まぬ再会を果たせる日を…  たま子を抱き締める日を…) 寄り添う志保と樹のぬくもりに 春紀は改めて決意をするのだった。    
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