山、半ば…

23/34
前へ
/315ページ
次へ
亮輔はその宴会で、 知事が言った  「戦後処理にあたり  〘外地残留兵引き渡し交渉職務〙を   した人物は知り合いが   一つ山向こうに住んでいる」 “外地残留”の言葉が 引っかかった。  「そもそも“お上”の信も篤い   宮内の教育係の御宅だ。   儒学者で経済学者であった   芳嗣氏には、教育改革の   謂わば荷の軽い仰せであるのを   『国難負うて外地へ向かい、    腹を減らせた民を救わずして    何の教育を新たにするか?!    恩教えてこその教育である』   と、復員兵の救助と……   国内戦災者の救済に尽力して   任期が終わってからは   和泉の実家に隠遁されてる…   まだ五十を過ぎたばかりなのに   余程…辛いものを見て   こられたんだろうね…。   とはいえ“戦死不明”  “復員兵”のことなら   不明点があれば、我々は   芳嗣氏にお伺いするんだよ」 亮輔も松堂芳嗣に 縋りつく気になったのだ。                   
/315ページ

最初のコメントを投稿しよう!

112人が本棚に入れています
本棚に追加