山、半ば…

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まだまだ田舎の調布の土地は 本来、蓉子の母親の実家で、 落ちぶれた男爵家の屋敷を 巧い具合に芝山が買い戻したのだ。 天文学者であった蓉子の父親は 戦中に病死、放蕩息子であった 蓉子の兄は終戦の年、 つまらぬヤクザとの諍いで あっけなく落命…。 それが引き金となって 蓉子の母親は、痴呆には まだ早い年齢にも関わらず 認知機能を極度に低下させ、 芝山を、死んだ息子と 勘違いしながら… 屋敷内でぼんやりと過ごしていた。 母親の世話や子育ても、 志保や女子寮の誰彼に 助けられながら看てゆける環境に  「こうして皆が世話を   焼いてくれていると   ちっとも心細くないのよ。   世間では独りで頑張ってる   方々も多いというのに。   いずれはその方面も   事業を取り入れて   ゆくべきかしら」 先見の明を見出していた。     
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