山、半ば…

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「らっしゃぁぁぁぁぁい!!」 一丁先まで抜けていくような 女将の声に迎えれる天満屋。 大阪出張の春紀は 正や大阪支社の仲間と深酒。 工事の進行について 現場の連中と一揉めした夜だった。  「資材が揃い難いのは   承知じゃないか!」  「『現場を知らない』って   簡単に言ってくれるな!」 酒に任させて愚痴が飛ぶ… それは明日に残さないため。 とはいえ、愚痴は尽きない。 志保は何でも話を聞いては くれるけれど、  (あまり甘えてはならない) 遠慮でなく、夫婦の礼儀のような…。 その上…  (心の狭い人間なんだ、俺は) そんな僻みも出てしまうほど… 嫌なことのあった日は “シベリア暮らし” “弟が継いだ家と妻” 考えても詮無い…馬鹿馬鹿しい怒りが 古傷みたいに痛みをぶり返す…。 これは決して志保に 甘えてはならないと 春紀は心得ていた。
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