山、半ば…

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「当事者の問題じゃないですか?  姉だかなんだか知らないけれど  少し口出しが過ぎるのでは?」 淡々と手酌ビールで  言ったのは、坂下という男。 昨年から寮へ来たインテリ。 所謂“アカ”と呼ばれていた人間で、 軍の差し金により満洲へ送られた末、 シベリア抑留の憂き目にあったらしい。 春紀より少し年長で 普段は経理課に所属していて 数字についてはかなり優秀。 「庇う気ぃなん?   このヘタレ(頼りない者)を」 「そんなことを言ってない。  当事者でないなら  黙っておればよいと  言ってるだけですよ」 感情的なみどりに対して 冷静な坂下の口調。 (まずいなあ…) 春紀達が緊張したところで 「……ヘタレ…ははヘタレや…  俺はどうしようもないヘタレや」 珍しく正が、口を開いた。
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