山、半ば…

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「怖いんや…怖い…怖い怖い  怖い怖い怖い怖い怖い怖い!」 正が頭を抱えて興奮気味に 何度も繰り返す『怖い』。 「幸せになった途端に  いっつも幸せは消えてばかり…。  好きな女と一緒になった途端に  兵隊へ連れていかれて…  やったあ、帰ってきたあで  喜んだら、嫁も親父もお袋も  ねーちゃん、にーちゃん、  飼い猫までぷわあーと  爆弾で消えたって言われて  もう頭がついてイカンのや…。  でも淋しい…淋しいから  優しい茜が好きになる…  好きと言うてくれた…でも  二人で幸せになった途端に  また茜までぷわあーと……  ぷわあーと消えたら…俺…  そのときはもう……もう…」 岩のように床に蹲る正。 春紀や坂下達には かけてやれる言葉を 見つけることが出来ない…。 あの極寒のシベリアの夜を  『帰れば幸福が待っている!!』 その希望だけを頼りに 心だけは凍らせず 歯を食いしばって 生き抜いたその先で、 その幸福が自分達を 待ってくれてはなかった現実。
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