山、半ば…

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「 え ?! 」 驚く皆の間を正が走って 表へ飛び出した。 「トラックって…なんで…  怪我は?!医者や!医者!」 焦る女将に 「違う違う!トラックに  びっくりして避けたら  ドブ(溝)にハマ(落ち)ったんよ。  バケツに水と雑巾を取りに  私が先に帰っただけ」 晶子が笑う。 「それを先に言うてや!」 晶子と女将が雑巾など用意して、 春紀達も安堵したところで… 「こんばんは」 同じ会社の男が二人来て 「おい、なんかあったんか?  正と茜ちゃん、外で  抱きおうて泣いてるぞ!」 「一緒にドブに足突っ込んで  『結婚しよ!』言うて泣いとる」 「おおおおおお!!」 一斉にあがる歓声。 茜を失うくらいなら どちらかが無くなる寸でまで また思い出を作る気になった正に 皆、歓喜した。 少し暗い気分になって 昔を恨んで愚痴った自分を 春紀は笑った。 (そうなんだ…かず子が、たま子が  家族との思い出があったから  あの壮絶なシベリアから  生還出来たのだ…俺は。  思い出が無ければ、きっと  あの地で氷になっていたはずだ。  帰っては来れたのだ…。後は  志保と樹と…次の思い出を  携えて…いつの日か、過去を  かず子達と懐かしむ日を  迎えれる人間になるんだ…) また一つ、気持ちの整理をつけて 明日の帰宅が待ち遠しい 春紀であった。
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