慕   情

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「ごめんなさい、  とんでもないことに…」 深夜になって 樹が二階で就寝してから 志保は深刻な顔を春紀に向けた。 「君が謝ることではないよ」 焦燥気味の志保を労り、 今夜は春紀が茶を淹れた。 「それにそんなに心配することも  ないさ、蓉子夫人が会社の  弁護士を代理に立てて下さるし」 「でも…もし…樹を…もしも  無理にでも連れていかれたら…」 昔受けた仕打ちからすると 志保は生きた心地はしなかった。 「法律上、それは無理さ、  今の世の中じゃ…でも  ただでも僕達の結婚という  生活変化で、樹なりに  とても気を遣っているんだ。  これ以上の負担は、ね。  樹には知られないように  君がしっかりしなくては」 「ええ…ええ…そうね…  私は母親なんだもの、  強くあらねば…それに…」    志保は春紀の胸に凭れて 「今の幸せを……誰にも  壊されたくないの、決して!」 強く目を閉じた。
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