慕   情

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初夏の風が当たり前になると 紀州は夏蜜柑が方方で 橙色の大きな実を輝かせる。 その景色を眺めていたかず子が 門の外をふと見ると 「おかえりなさい」 また少し大きくなった弟達を連れて 散歩に出ていたたま子達の姿が…。 「“マズルカ”…」 たま子の耳にショパンが聴こえた。   「僕、お父さんのとこへいく!」 「待って!亮真。  今、お父さんは一人で  ゆっくりしたいから。  そうや!一緒にチョコ食べよう」 上手に気を逸らせて 亮二のいるピアノの部屋へ 弟達を寄せ付けないように たま子は奥へ行った。 「亮二とたま子は似てるから  行動が読めるんやなあ」 舅・亮輔の声にかず子は振り向いて 「朝の仕事で何か…ありましたか?  亮二さんずっとピアノの部屋で…」 「いや、なんでもない。  古株の連中は…どうしても  亮一がしてたやり方に  拘るもんやから…ちょっと、な。  大丈夫や、明日には、な」 微笑みながら家に入る亮輔に かず子は安心しながらも (家業よりも、先生が向いてたから) 亮二の苦悩に、かず子の胸は痛んだ。
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