慕   情

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戦前には“田舎”と 呼んでいた東京近郊が、 恐るべき速さで人口を生み始め、 春紀の住宅建設部門の仕事は 多忙を極めていた。 幸いにして、樹の問題は 弁護士同士の話し合いの中、 こちらに有利に動いているようで 近藤弁護士からの直接連絡で 志保を脅かすことは、 あれから途絶えていた。 夕暮れ時もまだ暑さが残る七月、 春紀は、調布地域での 建築現場の周回を終えて、 自宅の調布の駅へと到着した。 (来年には駅舎も移設完了だな) 大正期からある京王調布駅は 町の開発計画に伴い 昭和ニ十八年を目指し、 駅舎移設工事の最中にあった。 「よお!帰りか?」 その工事に加わっている正が 手を上げて近づいてきた。 茜との結婚を決めてからの正は よりいっそう仕事に励んでいた。
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