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(そういや…)
今鼻緒を挿げ替えている草履も
着慣れた紬も
(上物だ…)
品の良い老婆の顔を
春紀はちらりと見た。
「お近くですか?お住まいは」
「え、あ、あの娘の処へ
寄った帰りでございます…」
「ご自宅は遠くですか?
多少の距離くらいなら
仮の鼻緒はもつとは思、」
そこへ、
「お父さん!」
樹がやってきた。
「みんなでお使い」
社宅の子供数名と
駅近くの豆腐屋へ来たらしい。
「みんなも飲むといい」
正は子供達にラムネサイダーを配った。
「今夜は冷奴だな、“樹”」
「そうだよ、母さんが
薬味を畑から採ってきてた」
“いつき”と聞こえたあと、
老婆の視線が樹にあったことなど
春紀は気づきもしなかった。
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