慕   情

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春紀を呼ぶ数日前… 代々木上原の前宅・ 今はホテルに変えた屋敷に 芝山は、松堂芳嗣を迎えていた。 e2bf95e3-2723-49b4-93bd-d3c76b73f46f 「上京まで戴きまして」 「高輪に嫁にやってる娘の処へ  用もあったしね。末の鈴子も  夏休みで退屈していたから  ちょうどいい旅行になった」 「鈴子嬢も大きくおなりで」 料理を運んできたのは佐渡。 三人は戦前からの旧知の仲だった。 「寛子の婚礼の折には  たいそうな贈り物を  ありがとうございました」 「いやいや…にしても、  よかったね。草葉の陰で  奥さんも喜んでいるだろう。  佐渡さんも歳を経ってからの  お子さんだけに喜びも  ひとしおだろうけれど」 一通りの挨拶のあと 佐渡が部屋を辞すと… 「笠岡君の父上はなんと?」 芝山が切り出した。 「漠然となんだよ、漠然と。  彼が帰国してすぐに潜んでいた  寺に残した木工細工を見て  何かを直感したらしい。  なんせ“死体なき死亡通知”だ。  親なら藁にも縋る思い…  笠岡君の実家は、我が家の  一山向こうじゃないか…私も  気にはなっていたんでね、  お尋ね下さる前から少しは  御家庭の事情も調べてはいた。  昨日は寺の即隆様にもお会いした」  
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