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芝山から話を聞いて…
何本も煙草を無駄に点けつつ…
社宅までの道を…春紀は
まさしく艱難辛苦を逡巡。
(親なのだ…会いたい!けれど…)
即答出来ぬ自分は
まだまだ拘泥している、と。
自分の帰還を信じて待っては
くれなかった親を、家族を…
心の片隅で、ほんの僅かでも
恨んでいる部分がまだあったのだと、
春紀は認めざるを得なかった。
玄関灯を見て…
(遅くまで起きて待ってくれる人を
得たというのに、俺って奴は…)
女々しい己れを叩くように
最後の煙草を踏み消した。
(志保を心配させてはいけない)
春紀は顔を作った。
(自分の気持ちが定まるまでは
志保には内緒にしておこう)
「ただいま、少し酒を
戴いてきたよ」
笑顔で戸を開けるのだった。
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