慕   情

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駅前で自転車屋を営む加藤は 暫く寮で過ごしたあと、 芝山の援助で自転車を 開業して一年余り、十五歳の弟と 二人暮らしをしている。 「新品自転車じゃないか?  それにこんなにたくさん」 「奥様が『子供達の外出と  運動に最適』だと言って  二十台ばかり買ってくれたんだ」 早速、樹などの男児は 試乗してはしゃいでいた。 「繁盛だな」 「ああ、有り難いよ。会社の  自転車やオート三輪車は  一手に扱わせて貰ってるし。  おかげで良い医者に  弟を診せることも出来て」 「弟さん、いいのかい?」 「ああ、なんとか家の中は  つたい歩きが出来るように  なれたし、自転車修理とか  進んでしてくれてる。  一年遅れくらいになるが  高校にも通えるかもしれん。  そうだ、樹ちゃん達もよく  店には来てくれるんだよ」 「そうかい?悪いなあ、  自分ばかり忙しくて  ちっとも知らなくて」 加藤の弟は戦災の脚の傷が化膿して 歩行困難にまでなっていた。 加藤がシベリアにいる間に 知らぬ男と再婚した母親のせいで、 弟は義父に厄介者扱いを受けて ろくな治療もされずに 暮らしているところへ帰還、 即座に芝山は弟も引き取り 然るべき病院も探してくれたのだ。  
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