慕   情

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「これ、よかったら  夕飯に、弟さんと  食べて下さいな」 話している後ろから 声をかけてきたのは美子、 風呂敷に包んだ重箱を差し出した。 「いつも申し訳ない」 「明日は私の自転車も  空気を入れて戴きに行くわ」 二人の様子は親し気で 加藤は美子よりも四つほど下だが、 (似合いだなあ) 春紀はなんとなく二人の仲を察した。 「ちょうどよかったよ…  誰かに相談したもんかどうか  悩んでいたんだけど」 「どうかしたのかい?」 「いや…おふくろが…ね…  病気して…亭主に棄てられて  難儀してると…親類から  連絡がきてね・・・」 男にだらしない母親は、 いつも男を渡り歩いては “棄てられる”の繰り返し、 弟とは父親も異なるという 身の上の加藤だった。
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